【序章 放課後】 それはいつもと変わらない放課後だった。
期末テストの期間の1週間前。 全ての部活動が禁止されるため、放課後は補修を受ける生徒以外はすぐに帰宅するように言われていた。 高校2年生のエリは、他の生徒と同じように帰り支度を済ませると友人の待つ下駄箱へと向かった。
“あれ?携帯が無い” 下駄箱の手前で携帯が無いことに気付いたエリは、友人に先に行っててほしいと言い残し、教室へと戻った。
2年生の教室は学校の一番奥の校舎にある。 教室に近づくにつれて人気がほとんどなくなっていた。
『携帯、、携帯、、、』エリはつぶやきながら自分の机の周りを探し始めた。 静まりかえった教室で1人、、、 エリは心細い気持ちになり、友人に一緒にきてもらえばよかったと後悔していた。
5分ほど探した時だった。 エリの背後から聞き慣れない声がした。 「エリちゃんでしょ。何しているの?」
エリは驚いて後ろを振り返った。 男子生徒が教室の入口の扉によりかかり、エリを見ていた。 髪が長く、大人びた雰囲気のあるその生徒は、小さな笑みを浮かべながらエリに言った。 「捜し物?」
男子生徒の手にはエリの携帯が握られていた。 携帯には大きなぬいぐるみのストラップが付いており、一目でそれがエリの物だとわかった。
『あっ、それ、どこにあったんですか?』 エリは男子生徒が携帯を拾ってくれたものだと思い、男子生徒の方へと歩み寄った。
『ありがとうございます。』 そう言って、エリは男子生徒に向かって手を伸ばした。
次の瞬間、男子生徒は携帯を持ったままエリから遠ざかった。 「捕まえたら返してあげるよ」 そう言うと、男子生徒はゆっくりと走り出した。 『ちょっ、、ちょっと、待ってください。返してよ。』 そう言ってエリは男子生徒を追いかけた。
男子生徒はふざけた様子で逃げながら、校舎の奥へと走っていった。 エリは、男子生徒がふざけているだけだと思いながらも、誰もいない校舎に知らない生徒と2人きりでいることに耐えられなくなっていた。
“この人おかしい!早く携帯取り戻して帰らなきゃ” 男子生徒から異様な雰囲気を感じたエリは立ち止まり、男子生徒に向かって怒鳴った。
『もう、いい加減に返してください!』
「じゃぁ、逃げきれたら返してやるよ」 エリの背後から別の男の声が聞こえた。 突然の声にビックリして後ろを振り返ると、ガラの悪そうな生徒が3人立っていた。 同じ学校の制服もあれば、見たことのない制服、私服の生徒もいた。 1人は同じクラスの生徒だと気付いた。
エリは身の危険を感じると、3人の生徒と逆の方向へと走りだした。
『だれか、、、誰か助けて!』 静かな校舎の中にエリの声が響き渡る。
「誰もいないって」 「追いついちゃうぞ」 エリのすぐ背後で男の声が聞こえた。
エリの携帯を持った男は立ち止まったまま、逃げるエリの姿を眺めていた。
「ほらっ」 エリを追いかける男の1人が手を伸ばし、エリのお尻を触った。
“何、この人たち!助けて!” エリは必死で走り、学校の一番奥に位置する体育館へと逃げ込んだ。
”えっ!!” 次の瞬間、エリは立ち止まり、体育館に逃げ込んだことを後悔した。
体育館にはエリを追いかけてきた生徒とは別に4人の男子生徒が立っていた。 そして、目の前の男子生徒が声を出した。
「エリちゃんの捕獲成功~」
エリは自分の置かれた状況に絶望感を感じ、そこに立ち止まった。
背後から男達の足音が近づいてきた。
「一緒に遊ぼうよ。」 そう言いながら男達はゆっくりとエリを取り囲んだ。
体育館にいた4人とエリを追いかけてきた3人、携帯を持った1人に囲まれ、 エリは身動きがとれない状態になっていた。
つづく
|